それは確信と希望たり得るか - ケプラー22bの発見

朝の衝撃

iPadiPhone用のアプリで「Exoplanet」というものがあります。太陽系以外で発見された惑星——系外惑星の一覧やそれらにまつわるニュースなどを見ることができるもので、新しい系外惑星が発表されるとデータベースの更新を通知機能で教えてくれる…という、ちょっとコアなアプリ。
今朝その更新がありましたのです。英文で「Kepler-22bが追加になりました」みたいな感じでね。
いつも通り特に意識せずにExoplanetを起動してデータベースのダウンロードを待ちます。Exoplanetのデータベースに載っている系外惑星はこれで710個になりました。
リストの一番上にある「Kepler-22b」を選択してみると、珍しく想像図が付いているじゃないですか。
ディスクリプションを読んでびっくりしました。固まりましたよしばらく。

ハビタブルゾーンにあるものとして観測史上最小の系外惑星

系外惑星ケプラー22b」は、白鳥座の方向、587光年のところにある恒星「ケプラー22」を公転しています。ケプラー22は太陽よりやや小さく、ケプラー22bはその周囲を太陽=地球間の距離よりもやや近いところをおよそ290日で巡っています(左は想像図、ウィキペディアより)。
ケプラー22bは地球の2.38倍の直径を持っていますが、質量はまだわかっていません。これはケプラー22bを発見した宇宙望遠鏡「ケプラー」が、標的となる星(この場合はケプラー22)の手前を系外惑星(同ケプラー22b)が横切る時のかすかな光の増減を捉える方法を採用しているためで、横切る時の光量の変化を詳しく調べることで軌道速度や直径はわかるものの、質量を知るためにはまた別の方法で観測しなければなりません。
ケプラー以前は質量を知るその方法…系外惑星が公転することで生じる星のふらつきの「大きさ」と「周期」を調べる方法を用いて、系外惑星は主に発見されてきました。一度ふらっとしただけではわからないのでふらふらする様子をしばらく観察することになるのですが、「星のふらつきが大きい=系外惑星の質量が大きい」かつ「周期が短い=系外惑星の公転周期が短い」ものほど見つけやすいため、700個を超える系外惑星の多くはホットジュピターと呼ばれる「星にとても近いところを公転する巨大なガス惑星」が占めています。一年が地球の数日しかないような系外惑星も多く、星にあぶられてガスが吹き飛ばされて尾を引いているものまであるほどです。
一方で小さな系外惑星はあまり見つかっていません。遠くにある小さいものが見えづらいのは当たり前のことで、地球くらいの小さなものより、より大きな木星タイプのガス惑星が目立つのは仕方の無いところ。それでも最近はケプラーをはじめとする観測装置や手法の進歩によって、岩石が主体であると推測される小さな(といっても地球の数倍はある)系外惑星も少しずつ見つかり始めていました。地球に近いサイズを持った系外惑星の発見が注目される理由は、他でもなく地球タイプの生命体の存在が期待できるからです。
もう一つ、星からの距離も重要なポイントです。星に近すぎて熱い環境では水が液体としては存在できませんし、遠すぎると寒すぎます。寒い環境でも木星の衛星エウロパ土星の衛星エンケラドスのように、氷の下に海があり、そこで生命が誕生している可能性もありますが、水が液体でいられる程よい距離にある系外惑星があれば、生命体が高度に進化し、文明を持つに至る可能性が高まるわけです。
この「程よい距離」は「ハビタブルゾーン」と呼ばれています。ハビタブルゾーンはある程度の幅があり、その範囲内に軌道があれば液体の水の存在が期待できます。太陽のハビタブルゾーンには地球と火星が入っていますが、火星はサイズが小さかったため十分な地磁気を生み出せず大気を失ってしまいました。また、金星はギリギリ内側に外れてしまっているため熱すぎます。
今回発見されたケプラー22bは、このハビタブルゾーンに入っているのです。

判然としない表面の様子

ハビタブルゾーンの中で見つかった観測史上最小の系外惑星ケプラー22b
710個の系外惑星の中で最も生命体の存在が期待できる…と言えそうですが、断言するのは早計です。
質量がわからないということは密度がわからないということでもあるので、地球と同じ岩石主体の惑星なのか、小さいながらもガス惑星なのかがわからないのです(想像図は地球型惑星として描かれていますが、実際はわかっていません)。
もう一つ、表面の様子もわかっていません。地球のような大気が存在していれば表面温度は摂氏22度と見られていますが、大気が無い場合は摂氏マイナス11度まで下がります。22度なら液体の水が期待できますが、マイナス11度では水は凍ってしまいますし、そもそも大気が無いので地球タイプの生命圏は期待できそうにありません。
今後の観測で大気の有無やその組成が突き止められれば、地表の様子も推定できるでしょう。

見つかったというその事実が大切

2007 star watch beginningそれでも、ケプラー22bは現状で最も地球に近い環境を期待できる系外惑星であることに間違いはありません。
そして、そのような系外惑星が実際に発見されたという事実そのものが重大な意味を持っています。
これまでは前述のようにホットジュピターばかりが見つかっていました。見つかりやすいから比率が多いんだろうと思われてはいたものの、ひょっとしたら岩石でできた地球型惑星は少数派で、世の中にはガス惑星ばかりがあふれているのではないか…という「不安」もありました。優秀な設備が整いつつあるものの、今の人類にはこれ以上小さな系外惑星を見つけることは不可能なのかもしれない、と言われることもありました。
しかし今回、地球によく似た条件の系外惑星が実際に見つかりました。今後もこのような発見が続くことでしょう。観測技術もどんどん向上し、表面の様子もより詳しく判るようになるでしょう。
今回は600光年近く離れたところに見つかったものの、これから先は100光年も無いところで同様の発見がされるかもしれません。
100光年以内…光の速度で100年以内に届く距離であれば、交信を試みることができます。
もし、相手が同様に観測を行うことで地球を見つけていたとしたら、信号を送信しているかもしれません。
地球外知的生命体探査はこれまでにも行われてきましたが、対象となる領域が余りにも広大でした。
だけどもし、狙うべき天体を絞り込むことができたとすれば。
狙った先の系外惑星には十分な水と酸素を含む大気があり、生命が存在し、無線通信技術を持った文明が栄えていたとしたら。
そんな可能性をSFのレベルではなく現実の領域へとまた一歩引き上げる発見なのです。

訂正

一部訂正。最小の系外惑星じゃなかった。ハビタブルゾーン内としては最小。