2:病院

間が空いたけど忘れようもないので続き。


「思い出せない」とか「忘れてしまった」というよりも、何も知らない場所に放り出されて独りぼっち。
そんな9/29の朝。
コーヒーを飲んだ。お茶ではなかったと思う。薄めだったので苦ではなかった。
少しずつ落ち着いてきた。得体の知れない怖さは感じていたものの、ここ(自宅)が安心していい場所であるということは徐々に感じ取れてきたので、気持ちも落ち着いてきていた。
物の名前と会話は可能なものの、相変わらず時間の感覚や人物の名前が思い出せない。というより、「知らない」という感覚なのでどうにもならない。


病院に行くことになった。


激しい頭痛を訴え、職場から救急搬送された翌日のことだったらしい。
苦痛に身悶えていたらしいが、病院にいる間に症状も緩和され、CT等の検査*1でも問題は見られなかったようなので、帰宅して様子を見ることになったようだ。
その中での記憶喪失である。


妻に連れられて下の子とともに病院へ。この時点では「親切な人と可愛い女の子」の二人と一緒である。
車に乗ってバイパスを走ったのだが、凄まじい台数の自動車が駆け抜ける様子は目が回りそうだった。
病院には一冊のノートを持参していった。思い出せることと思い出せないことをリストアップしたほうがよいのではないかなあと何となく思ったからで、外来で待つ間にあれこれを書き出してみた。
不思議なのは、書いている文字が突然鏡文字になったり画数が増えたりすること。今もそのノートを読み返すと「か」「し」「の」「や」などが反転して書かれていたりする。漢字は意識して書かないと出てこなかったので比較的まともに書けていたが、画数がおかしいものがちらほらとあった。
そのノートは仕事で使っていたもので、前半にはそれに関連したメモなどがびっしり書かれている。


リストをどこに書こうかと裏表紙をめくったところ、それがあった。
あちこち使い回していたユーザー名とパスワード*2、幾人かの友人・知人の連絡先。
そして「俺へ」と題した、自分宛のメッセージ。


今もそのメッセージをいつ書いたのかは思い出せないまま。
頭痛で救急搬送のことも思い出せない。
ただ、何かしら予感するものはあったということなのだろう。
あるいは頭痛に苛まれる中でそれを書いたのだろうか。


今の自分からは、前の自分が遺した「遺書」めいたもののように感じている。

*1:この時点でMRIは撮らなかったらしいが、急性の病変はCTで確認できるので問題ない様子。

*2:ほんとはよくないよねえ。おかげで助かったんだけど。