壊れた尾翼を読んだ

壊れた尾翼 (講談社+α文庫)

壊れた尾翼 (講談社+α文庫)

正確には'87年に出たハードカバー版ですが。
先週末に市立図書館で借りてきて今日読了。何故か航空宇宙図書コーナーがあるんですようちの街の図書館は。何故航空宇宙。いや私ゃ嬉しいけどさ。何故。バルーンフェスと臼田のパラボラくらいしか思い当たる節が。
加藤寛一郎氏による、航空力学(というよりもむしろ物理学)とパイロットの心理・行動面からアプローチした日航123便墜落事故と雫石の全日空機と自衛隊機の空中接触墜落事故の分析。
雫石と御巣鷹山とどんな関連性があるのかなあと思いましたが、なるほど「尾翼」という視点から考えると、それがあった、なかった、ならばどんな挙動を示したか、それが主観ではなく数式等により客観的に導かれている良書ではないかと感じました*1
世に広まっている123便ボイスレコーダーは聞いたこともありますし(っていうか今もデータ持ってますし)、MSのフライトシムで実際にB747SRのモデルに当時の日航のペイントパターンをマッピングして、フライトレコーダーの情報をもとに事故調公表のCVR記録を時系列に沿って字幕表示し、CVRが存在するものはBGMとして流し、事故発生から墜落までを再現したアドオンの記録動画も見たことがあります何書いてんだかよくわかんなくなってきたな。orz
その中で素人なりに「ん?」と頭を捻るシーンもあったりしましたが、そのあたりも理解できました。
例えば墜落直前に機長が「パワー、パワー!」の後に「フラップ!」と叫び、副操縦士航空機関士が「上げてます!」と叫ぶ。そして、事故調では聞き取った形跡もありませんでしたが、一呼吸して機長らしき声で「ストール(失速)するぞ!」と叫んでいるように聞こえる場面。
フラップは高揚力装置…つまり揚力を増やすためについている装置で、下げることで揚力が増す。それを上げる=収納するってことは揚力失っちゃわないかなあとか思ったりしていたわけですが、あれはエアブレーキの役割も果たしてしまうので、揚力よりも速度が優先されるシーンでは逆効果ともなってしまうのですね。
ましてや油圧がダウンしていたため、電動で数十秒かけて上げ下げしなければならないような場面では、タイミングが悪ければ揚力が必要な局面でフラップは下げてる途中だったり、失速しそうな姿勢(機首が上向きすぎているような時など)で下げきる位置に来てしまったり…。
素人考えですが、右旋回しつつ機首が下がり、しかし速度も落ちていた飛行経路の終末段階、その時フラップが下がってきてしまったのでしょうね。
パワーを上げて機首を上げつつ速度を増し、失速を防ぐ。しかし山岳地に進入していたため、高度の割に地面は近い。そしてフラップはなかなか上がらず…。
ストールするぞ、の叫びの後の「あたま上げろー、あたま上げろー、あたま上げろー!」は、単なる指示だけでは無かったのかなあ。などと思ったりもしました。
大月上空での旋回降下が無く、長野=群馬県境での高度がもっと上だったら、ひょっとすると御巣鷹は越えていたのかなあ。
すでにあの飛行経路は「空力の悪戯」のレベルだったようで、急旋回も山地への進路変更も、異常なダッチロール*2による機体姿勢や、エンジン出力のわずかな差、気流などによる「偶然」の産物と考えられるそうです。
となれば、御巣鷹を越えた先、わが街もある千曲川流域まで飛行を続けていた可能性もあるのかなあ。
市街地もあるわけだけれど、人里に近ければそれだけ墜落地点の特定や救助活動も早く行われはしなかったかなあ。
飛び続けられる距離としては、あまりにも可能性の高いところに私は住んでいたんだなあ。
色々考えてしまいました。


そんな意味では、佐久市立図書館に航空宇宙図書のコーナーがあるのはなんだか納得できてしまうなあ。私だけかそんなん。

*1:や、本当に主観が混じっていないかは断言できませんが。でもそれは他の分析考察においても言えると思う。

*2:本来のダッチロールは主翼上半角あるいは後退角と、垂直尾翼による横滑り時の機体姿勢安定のための挙動のようで、123便の8の字ダッチロールは本来のダッチロールではないそうです。