来週に向けて世界観を切り替えるために

にぎやかな孤独


 推進器を進行方向に向け、加速する。静止するまでの約二十三分間、ヘンリエッタは主推進器につながる対消滅炉の出力を解放する。全開にはしない。調子に乗ると前々回の観測飛行の時のようにプローブを潰して叱られてしまうから七十三Gまでで我慢する。
 母星からの距離はすでに数千光年に達している。
 今回の飛行では新たに十四の星系に立ち寄り合計九つの惑星を調査したが、そのいずれにも生命活動の痕跡は見当たらなかった。
 現状を報告するために位相差空間通信を試みる。
 体内の奥深くで力がみなぎってくるような感覚を憶える、船殻の身じろぎ。
 船外がほんのりと明るく輝きはじめ、一瞬後には星々の姿は完全に消え去る。


 体が大きく、とてつもなく大きくなるような錯覚。


 位相角セブンポイント八六三。
 仲間たちの声が聞こえてくる。
 目を開く。
 左を振り向けばエリーの楽しげな笑い声。何を見付けたんだろう?
 上の方ではアンドリューがまた気難しい声で何かを論じている。もう飽きたよその話は。


 小さな庭におしこめられた銀河系の上で、私たちは遊んでいる。


 母星にいるのはおるすばんのチャーリー。
 彼に叫ぶ。


「なんにもいなかったよ!」


 みんな、同じ星から旅立った仲間たち。
 何万光年離れていても、気持ちは一緒。
 いつになったら、新しい仲間と出会えるんだろう?


 この長い孤独な旅が終わるのは、いつなんだろう?