息子よ…

昼間、息子と外で遊んでいた時のこと。
枯れ葉の下から一匹の蛾がバタバタともがきながら外に出てきた。
「むしー、むしー」
最近見かけなくなった虫がいたものだから、息子も久々に「お、お?」興味津々で様子を見ている。
しかし彼(彼女)にとって、11月下旬の昼前はやはり寒すぎたのだろう。
息子に追いかけられて体力も消耗したのか、動かなくなってしまった。
すると息子は、
「しんじゃったあ」
と私に話しかけてきた。
季節の変わり目の難しい時期に熱帯魚が浮いていることもあったし、居間で叩き潰した蝿なんかも見ているから、彼なりに「死」を理解しはじめてはいるのだろう。
だか、手にした枯れ葉で「つん、ちゅん」とつついている様子を見る限り、寝ることとの違いまではわかっていないのかもしれない。
「…葉っぱ、虫さんの上にかけてやりなよ」
「ん?」
「虫さん、ねんねしたいんだって。お布団みたいにかけてやってな」
「んー…ぱーぱ、はい」
枯れ葉を私に手渡す息子。なんだかよくわからないといった様子。
そっと茶色い枯れ葉をかけてやるのを見るや、再び手押しのダンプトラックのおもちゃを手にぶんぶんと駆け回り始める。
なあ、息子よ。
パパも死ぬってことは、まだなんだかよくわかっていないようなものなんだよ。
つんつんしても、もう起きないってことくらいはわかるけどな。
なあ、世の中にけっこういるらしい馬鹿みたいな奴らみたいにならないように、お前は命を軽く見ない男に育ってくれよ。
俺たちも全力で育てさせてもらうから。
一緒に育っていこうな。
俺を含めて、いつか周りの人間が死んでいくのはきっと辛いと思うけど(お前が先に逝くなんてことは考えたくもない)、俺はお前の親父であることを誇って逝けるように頑張るからさ。
なあ、息子よ。


あ、仕事せな。