重力変動説について浅く考えてみたり

浅くてごめんなさい(笑)。
といっても浅く考えるだけでも違うものです。


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(via: http://www.jplnet.com/)


恐竜が絶滅した理由についてはずーっと議論されています。有名な隕石衝突説から火山噴火、アルカロイド中毒、哺乳類による卵の乱獲、果ては宇宙人による狩りまで様々です。
つい先日はインド西方沖に巨大なクレーターが見つかり、これこそが恐竜に止めを刺した巨大隕石の衝突痕だとする研究結果が報告されました。ユカタン半島のチクシュルブクレーターは6550万年前、絶滅は6500万年前とされていて、その間に数十万年の隔たりがあることから実は隕石落下が原因ではないのではないか?とも言われていましたが、シバクレーターと名付けられたこの巨大クレーターは6500万年前のものとされています。恐竜は最後の最後でアンラッキーでしたね。巨大な隕石をわずか数十万年の間に2発も食らってはたまらなかったでしょう*1


さて本題ですが。
絶滅の原因の一つとして挙げられているものの中に重力変動説というものがあります。
簡単に説明すると、

恐竜のように巨大な生き物が生存するのに今の地球の重力は強すぎる。きっと昔は今より重力が弱かったが、中生代末に至るまでに徐々に、あるいは唐突に重力が強くなり、体を支えられなくなった恐竜たちは自らの重さに耐えきれずに死んでいったのだ!

という説です。


微笑ましいですね。


で済めばいいんですがなかなか本気で唱えられている説でもあり、化石から求めた骨密度やらなんやらで反証もされているのですが、もっと簡単に計算でこれを反証してみます。


重力というのは物体の質量によって生じます。地球という岩石と金属の塊が空間を歪めているのです。物理などで約9.8m/s2という定数で計算していると思います。私の母校ではもう一桁厳密に9.81で計算してました。
これを減らすには地球の質量を減らすか、自転速度を速めて遠心力を強くするしか現実的な方法はありません。つまり、地球の質量がいきなり増えたか、自転が遅くなったために重力を打ち消していた遠心力が弱まって、重力が増えてみんな重くなっちゃった。というのが重力変動説です。


まずは地球の質量がいきなり増えたケース。
質量源となりそうなものといえば隕石です。チクシュルブクレーターを穿った隕石は直径10km、シバクレーターに至っては40kmの隕石が落下したとされています。これは重そうです。一体40kmの岩の塊が増えたら重力はどのくらい増えるのでしょうか?
球体の体積は「4×円周率×半径の三乗÷3」で求まります。

L=\frac{4}{3} \pi r^3
L=体積/r=半径

質量はこれに密度を掛けてやれば求まりますが、仮に隕石の密度を地球と同じだと仮定します。
重力加速度は「万有引力定数×天体の質量÷天体の半径の二乗」で求まりますので、天体の質量に比例することがわかります。

g=\frac{Gm}{r^2}
g=重力加速度/G=万有引力定数/m=質量/r=半径

質量は体積に比例するので、半径の三乗に比例することもわかります。
地球の半径を6378km、隕石の半径を20kmとすると、これらを三乗した時の比は約3243万倍となります。
つまり、直径40kmの隕石が落ちても地球の重力は3000万分の一も増えないということがわかります。

g'=\frac{G(m+m')}{r^2}
m'=\frac{1}{32,430,000}m
m'≒0
∴ g'≒g
g'=隕石衝突後の重力加速度/m'=隕石の質量

1トンの自動車に0.3グラムの砂粒がかかったくらいの増加です。
ちなみに重力を1パーセント増やすには単純計算で直径2740kmの天体を衝突させないといけません*2海王星の衛星トリトンとほぼ同じですね、密度が違うので単純には比べられませんが。それにこれだけ大きな天体が衝突すれば、恐竜だけでなく生命圏そのものが消滅するでしょう。嫌気性で好熱な菌類くらいなら地下で生き延びるかもしれませんが、大気も海も二度と蘇らないかもしれません。



これは400kmだった場合のシミュレーション via 地球大進化 by NHK。400kmでさえこれですよこれ。


しかもそこまでして増えるのはたったの0.01Gです。
10トンの恐竜が10.1トンになったくらいで死んでしまうでしょうか?そもそも大気も海も消し飛んだ地獄で生き延びる可能性はゼロですが…。



さーて気を取り直して自転速度が遅くなったケースいきます。
地球誕生時の自転速度は約6時間だったと言われています。それが今の約24時間になったのは、月の影響によるものとされています。
潮汐力という力があります。潮の満ち引きを司る力です。太陽系を支配しているのは太陽と木星の重力ですが、地球表面では木星よりも月の引力の方が無視できません。
海水は常に月や太陽から引っ張られています。月の方が近いので、より影響を及ぼし合うのは月です。地球の自転は月の公転よりも速いので、地球からすればいつも月を引っ張りながら回っていることになります。
引っ張るのに使った力はどこから来てどこに行くのか。源は地球の自転、行く先は月の公転速度です。かつて地球の自転は今よりも速く、月は今よりも地球に近かったとされています。潮汐力によって地球の自転にブレーキがかけられ、失ったエネルギーは月に与えられて公転速度を速めました。軌道速度が増すと軌道半径も増えますので、月は少しずつ地球から遠ざかっていったのです。今も月は地球の自転から力を奪い、少しずつ地球から遠ざかっているのです。
さて、今の地球で赤道に立った時に受ける遠心力はどのくらいでしょう。遠心力は「質量×半径×(2×円周率÷一周に要する時間)の二乗」で求まります。

F=mr\omega^2
\omega=\frac{2\pi}{t}
m=質量/r=半径/t=一周に要する時間

さきほどから重力重力と言っている力は「質量×重力加速度」で求まりますので、これを遠心力で割ってやると比が求まることになります。「(重力加速度×一周に要する時間の二乗)÷(半径×4×円周率の二乗)」ですね。

N=\frac{mg}{mr{(\frac{2\pi}{t})}^2}
N=\frac{gt^2}{4\pi^2 r}
N=重力と遠心力の比/g=重力加速度/t=一周に要する時間/r=半径

これを計算すると約290倍となります。赤道で受ける遠心力は重力の290分の1というわけです。意外と強めですね。一周に要する時間というのはつまり24時間ということです。
さて、自転がもしも今よりも速かった場合ですが、仮に6時間で一回自転すると仮定すると、今の4倍速く回ることになるので「一周に要する時間の二乗」という部分からわかるように今の16倍の遠心力を受けることになります。倍率は18倍、5.5パーセントも軽くなることになります*3。10トンの恐竜なら9.45トンになっていた計算です。
でもやはり、その差は僅かであるように思えます。それに自転周期6時間というのは地球と月が誕生した40億年以上も昔の話で、その頃から少しずつ少しずつ地球の自転は遅くなってきたのです。恐竜絶滅は地球全体の歴史からすればつい最近、6500万年前のこと。自転速度も今とそれほど大きくは違わなかったのではないでしょうか。出典無くて申し訳ないですが。



地球の重力加速度が変化したというのはなかなか魅力的に聞こえる説ですが、実際これを達成しようとするとかなりハードルが高そうです。急激な自転速度の減衰に隕石を持ち出すこともできるかもしれませんが、ヒットした角度とか衝突速度とか求めるのは大変なので浅い思考はこのへんで(汗)。それでも数パーセントしか減らせないでしょうし、自転による遠心力の影響をほとんど受けない南北両極域では無意味な話です。そもそもミクロラプトルのように小型の恐竜までが消えてしまった理由としてはいささか力不足の感があるわけで…。



個人的な結論。重力変動説には無理がある。



蛇足ですがこのエントリはほぼ全てiPhoneのみで作成いたしました。画像/動画/加筆はMacBookにて。初めてはてなtex記法を使いましたが、これ便利ですね。ニアリーイコール(≒←これね)の出し方が判れば完璧。

*1:それ以前から種の数が減っていて、隕石落下は絶滅に至る原因の一部でしかないとする説もあります。実際は大陸の配置によって海流が変化するなどの複合的な事象によって絶滅はもたらされたのでしょう。シバクレーターについても、同地域で発生していたデカントラップの火山活動に拍車をかけたことで恐竜をノックアウトした可能性があるとされています。

*2:実際は体積増によって直径が増えたりするのでもうちょっと小さくても良さそう、だけど衝撃で吹き飛ぶ岩石etc…と難しい話なのですが。

*3:遠心力で地球そのものが赤道方向に膨らんで直径が増したぶん重力加速度が減るところとか細かい部分までは考えてません。